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3.2 科学的方法としてのアナロジー

これまでの検討で、生命に学んだエネルギー技術というエネルギー革新のコンセプトを見てきた。本節では、このコンセプトの方法論的基礎であるアナロジーについて調べる。
一般に、アナロジー(あるいはメタファー)を科学的推論の根拠に使うことは、反論が多い。アナロジーによって二つのシステムや現象の間に類似性が認められても、それらの背後にあるメカニズムや法則まで等しいということの根拠にはならないからである。
しかし、コンラート・ローレンツやダグラス・ホフスタッターらは使用法を限定した形でアナロジーの正当性を主張し、その発見的効果や新概念創造のためのツールとしては高く評価した(Lorenz,1973;Hofstadter,1985)。ここでは、アナロジーによる説明を従来の説明の方法と比較することで、本研究の目的にとってはむしろ重要であることを指摘したい。
一般に、現象の説明には法則的説明と歴史的説明の二種類がある。前者は、「リンゴの木からリンゴが落ちるのはニュートンの万有引力の法則が作用したからだ」というたぐいの説明であり、後者は「ナポレオンがロシア遠征で敗れたのは冬支度が不十分だったからだ」というような説明である。言い換えると、法則的説明とは説明を現象より下位の階層レベルヘ「還元reduction」する方法であり、歴史的説明は同じ階層レベルで「記述narrative」する方法である。
いままで、科学的な説明としては前者のみが強調されてきたが、これは単純な系については有効なものの、複雑な系ではあまり効力がないことが多い。生物現象のような複雑な対象を扱う場合は、歴史的説明に頼らざるをえないことが多い。生物進化の原理である自然選択理論(ダーウィニズム)は著しく歴史的な説明原理だが、対象とする現象(進化)が複雑なので、その歴史的特徴ゆえに成功したと考えられている。一般に、非線形の複雑適応系については、還元的な法則的説明はほとんど不可能であるとみなしていいだろう。
そのような対象の場合には歴史的説明に頼るしかないのだが、この方法は対象とする現象やシステムが十分長く存在していなければ適用できない。たとえばインターネットのような歴史の浅いシステムの挙動を説明することは難しいし、本研究が対象とするエネルギー・システムも、決してその歴史は十分とはいえない。
このような、既成説明原理の欠点を克服する方法が、アナロジーである。これは、歴史的説明が現象と同階層による説明を時間軸にそって展開するのに対し、複数の異なるシステム間で説明を展開するものである。その分、因果関係の説明能力は小さくなるが、現象の構造を説明したり挙動を予測することについては効力を発揮する。
アナロジーによって新たなコンセプトを創造した例としては、チャールズ・ダーウィ

 

 

 

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